20140418

W.M.ヴォーリズ氏の建築を彩る須賀工業社様製送水口



大丸心斎橋店。

http://www.daimaru.co.jp/shinsaibashi/vories/

公式ページには「W.M.ヴォーリズと大丸心斎橋店の建築美」というコーナーがあります。
素晴らしい写真で、ここだけ見たらお城のような豪華さです。

しかし、個人的に付け加えて頂きたいのがこれ。






連結送水管送水口。この写真は二回目の訪問時。2012年の4月末のものです。
検査証があることから現役であるようです。
磨き上げれば真鍮の輝きが放たれるに違いありませんが、きっと敢えてこのままにしているのでしょう。麗しい緑青は時代を経た逸品だけがもつ風格をつくりだし、百貨店の壁面を一層華やかなものにしています。鈍い輝きはこの街の移り変わりを見つめてきた証とも言えます。

製作は須賀工業株式会社さま。
認証番号、或いは特許番号も書いてありますがこちらは詳細不明です。
露出Y型、化粧板は送水口ヘッドとドレン弁をつなぐ足型風。
ドレンは専用の金具で開閉するタイプでしょうか。
鎖は新調したもののようです。
中央には大丸印。



見つけると嬉しい企業ロゴ付送水口です。

上部に表示。・・・・STANDPIPE。
ヘッドの球部は小さく、接続口には媒介金具?が取り付けられています。
ねじ式を差込式にしている?
                 
Wikipediaによると、当該店舗は
第一期工事完成が大正11年
第二期工事完成が大正14年
第三期工事完成が昭和8年 となっています。

近代デジタルライブラリーの「須賀商會」のページを見ると、
昭和6年版になって初めて送水口(サイアミーズ・コンネクション)の紹介が出現します。
昭和4年版ではまだありません。
ということはおそらくその間に自社の送水口を開発・生産するようになったのではないでしょうか。
するとこの送水口がついたのは少なくとも大正ではない。
今のところ戦前の送水口は「そうかもしれない」と思われるものはいくつかありますが、
確証が持てるものはありません。
けれど、これはかなりその可能性が高い。

ところで、須賀株式会社さまの芸術品とも言える製品は、他にもあります。
例えば大阪の農林会館。






名古屋の丹羽幸株式会社さまには壁埋設型の製品も取り付けられていました。



須賀さまの製品はこのように、心斎橋店以外にも重厚な美しさをもつものが多々ありますが、
心斎橋店のものはいろいろな意味で貴重だと言えるのです。

それは、
先ず設置年代。既に書いたように戦前の可能性が高い。
次に The 百貨店ともいうべき心斎橋店の外観に相応しい豪華さがあったということ。
恐らく消防設備としても取り入れられたばかりだったであろう送水口。非常に高価であったことは想像に難くありません。それなのにあのデザイン。あの黄金の煌めき。
それから・・・「STAND PIPE」表示であるということ。

私の目で全国全ての送水口を見たわけではないので何とも言えないのですが、私が知る限りでスタンドパイプ表記のものは大阪では上記に加えて日本機械工業さまの単口で3例。
難波高島屋のメーカー様不明の送水口。
東京では築地の菊栄ビルと日比谷公会堂。(東京の物件は前者が解体により、後者が送水口自体の取り替えにより現存しません。)
他にもまだいくつか存在すると思われますが、もともと現存数が少ない英語表記の送水口の中でもこのスタンドパイプ表記は圧倒的に少ないと言えることは間違いありません。ほとんどのものはSIAMESE CONNECTION という表記です。
サイアミースはこのブログの他のページでも書いているようにシャム双生児からきているとのこと。あえてこれではないものを選んだとしたならばすごいと思うのです。須賀さまの場合はサイアミースコネクションとスタンドパイプのどちらも使用しているようですが、この場合はどうなのでしょうか。もしかして大丸百貨店の意向なのか。



そして何よりこの送水口を遺したいと思う理由は、日本の送水口が欧米の送水口に学んで取り入れられたということを体現するデザインであるからです。

今でも欧米の送水口はこのようなデザインが残っていますが、現在の日本の壁埋設型、自立型の送水口はそれ自体とてもシンプルです。また、設置の仕方も環境への配慮としてできるだけ目立たないようにする、という方向へ向かっているような気がしています。
勿論消防設備である以上それは当然のことです。必要以上に華美で高価な必要はありません。
しかし、非日常を目指し、夢を買いに行く百貨店や文化と伝統を積み重ねる博物館や美術館など、
建物の種類によっては、「街並みの景色・景観をつくる一助となるもの」としてこのような送水口を遺していく価値があるのではないでしょうか。

しかし、心斎橋店は改修してしまうというニュースを先日聞きました。
それが本当ならば、改修、或いは建て替えの際、ヴォーリズ氏のデザインによる外観が何らかの形で残ることは予想されますが、送水口は・・・これまでの例からして難しいような気がしています。


送水口は高層ビルが立ち並び、地下街なども大いに発展した日本にはなくてはならない設備です。あまり注目されてはいないものではありますが、その歴史的な価値や経緯とともに、送水口を日々研究し、高い技術を投入してその性能を飛躍的に高めてきたメーカーさまたちの仕事についても、少しでも多くの方に知ってもらうためにも何らかの形で保存していってほしいと思うのです。

私のものでは勿論ないですし、金銭的なことを考えると無体なことを申し上げているともわかっています。しかし、できることなら・・と思うのです。


最後になりますが、送水口は「使わない時も、いざという時のためにいつでも最高の性能を保っている」ものであり、「使われなかったということは安全であった」という、商品としてある意味矛盾した性格をもつものです。
そうやって大丸を守ってきた送水口を少しでよいので脚光を当ててほしい。
それが願いです。




・・・長くなりました。
ここまでお読みになってくださった方がいらっしゃいましたら心から感謝を申し上げます。
ありがとうございました。

6 件のコメント:

  1. とてもとても愛と情熱を感じてしまって、コメントを書き辛いのですが、
    この須賀さまの送水口のT.SUGA&CO.,LTDの下の部分、
    球体の所に刻印がありまして、PAT NO.103552と打たれています。
    何かお調べになる手がかりになればと思います。
    大阪の難波の高島屋にもSTANDPIPE表記の送水口がありますよ(^^)

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  2. ありがとうございます。文章があまりに長くて申し訳ないのですが、
    番号の刻印について・・・文中「認証番号か特許場号」と書いているもののことですね!
    実はその番号でなかなか検索をかけてもわからなかった経緯があります。
    特許なのかなあと思うのですがもしわかったら書きます。Yukiさんももし何かわかりましたら教えてください(>_<)
    また、菊栄ビルについての表記の上の行で高島屋のことは触れてみました。
    あの下向き▼三角も不思議ですよね・・。
    刻印を削ったわけでもないでしょうし、企業ロゴという感じがしません。
    でもかなりの老舗で技術もあるはずです。ぱっと見NIKKIのものかとも思いましたが・・違和感はあります。
    古き時代のものは企業さま自身も記録がないことがあり難しいですね。
    そして私自身も何を明らかにしたいのかはっきりしないとただのストーカーになってしまう。
    送水口について伝え残すべきこと、そして今はまだ価値がわからずとも「知っておきたいこと」を明確にして取り組んでいこうと思います。
    またお気づきのことがございましたら教えてください!
    ありがとうございました!!

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  3. 初めて投稿します。村上製作所の村上です。
    気づいた点に、いくつかコメントさせてもらいます。
    STANDPIPEのものは、現在では東京消防庁のみがホース接続口にねじ式を採用していますが、大丸の竣工当時は消防の条例もなく当時の入手できるものが設置され、後に条例でホース接続口が差し込み式とされ、後付け媒介で更新されたようです。
    また、下に付いている25Aの差し込み式バルブは、STANDOPAIPEの水抜きや補助的な消火栓としても使えるよう予備的な機能を持っていたと考えられます。しかし、後に日本国内では不要となり姿を消すことになります。
    SIAMESE CONNECTIONは、ホース接続口内に逆止弁が内臓されたことで、送水に使ったホースを簡単に外すことができるようになり、現在の送水口のようにその水抜き機能がなくなったのものではないでしょうか?

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  4. 村上様、コメントを頂きまして恐縮です。コメント通知を見て手が震えました。

    大丸の送水口はだからあのように接続口の根元部分にねじがあり、それなのに実際は差込式になっているのですね。最初見た時には媒介金具のごてごて感にとても驚いた記憶があります。
    「後に条令」ということもこの送水口は表しているということですね。まさに送水口史を体現するものと改めて思いました。

    下のバルブは25A・・一般家庭用より多少太いとはいえ補助的な消火栓の意味合いもあったとは驚きです。それ以前に、消火栓として使用する場合、水は配管に入っている部分を使用するということなのでしょうか。黎明期のものとしていろいろな試みもなされていたと考えると非常に興味深いです。

    また、「接続口内に逆止弁が内臓された」、ということはかつてはそれがなかったということですか!?・・一度接続したらホースを取り除くときに水を抜くか止水弁を操作しないととんでもないことになっていたということなのでしょうか。本当にさまざまな技術が加えられて現在の送水口になっているのですね。
    感涙です。
    このコメントだけでもいろいろなことがわかり、そしてもっと知りたいことが出てきました。
    今、頂いた写真でブログを書いています。
    アップしたらまたお知らせ致します。お忙しい中、本当にありがとうございました。
    今後もよろしくお願いいたします。

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  5. http://masagrant55.hatenablog.com/entry/2014/05/08/011410
    こんにちは、Instagramでお世話になってますmasa_36です。特許番号の件、調べてみたのでブログにまとめました。よろしければご参考ください(何度かここにコメント入れようと失敗してしまい、変な履歴が残っていたらすいません)

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  6. おはようございます。とても、とても面白かったです。そしてブログについてのお言葉、恐縮です。ゴムが裏に付いている金属管の製造についての特許ということですね。私は全く知識がないのですが、なるほど自転車メーカーっぽいです。しかし裏にゴムがついているとなると媒介金具部分かなあと思ったのですが、それは後付媒介の可能性が高い。一方特許番号は本体についている・・・もしかして本体にもゴム部分がある?などとわくわくが広がっているところです。と言いつついろいろな方に知識や情報を頂いてばかりなのですが・・・
    それにしても特許番号の調べ方は本当に勉強になりました。つい印刷してしまいました。他の記事も興味深いものばかりで文章を読むほどにどんどん深みへと導かれていく感じに興奮するばかりでした。出会えたことに感謝しています。インスタでもよろしくお願いいたします!!

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