20160803

長崎オールド送水口と急傾斜暗渠の旅 その2 長崎県庁編② (扇形プレートでつらつら語る編)

今回はいきなり道を外れまして、村上製作所が造った、いえ創った、扇形の飾り板をもつ送水口について書いておくことにします。


2016年8月1日現在、村上製作所製の扇形飾り板をもつ送水口は4点のみ確認されています。


A 横濱ビル

B 長崎県庁

C 滋賀ビル

D 釜石市庁舎 

です。

もしかしたら、この日本にまだひっそりと存在しているのかもしれませんが、とりあえず、今回はこの4つを比べてみたいと思います。





ということで並べてみたのですが、
(追記 釜石市庁舎送水口の設置は恐らく昭和29年です)
こうやって見ると、村上製作所の送水口についていくつか新たな事実が見えてきます。

① 本体は半球形のものの方が古い。立ち上がりに緩いカーブをもつものの方が新しい。
② かつて本体と接続口を繋ぐ部分に弁の蝶番があった。
③ かつて本体の中央には鎖留があった。
④ かつてはロゴを付ける部分はなく、MURAKAMI CO.LTDと書いてあった。
⑤ 村上製作所製送水口を見分けるサインの一つである「奇跡のピリオド」はこの時期からあった。
⑥ 村上製作所製送水口を見分けるサインの一つである「銅線トンネル入り口」はこの時期からあった。
⑦ 村上製作所製送水口のアルファベット表記において、単語と単語を接近させる傾向がある。



以上のことは、釜石市庁舎のものがこの中で最も新しいと考えるとすっきりします。
ということを頭に置いて一つずつ見ていきましょう。


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先ず①。


本体は半球形のものの方が古い。・・・A横浜ビル、B長崎県庁
立ち上がりに緩いカーブをもつものの方が新しい。・・・C滋賀ビル、D釜石市庁舎

横から見ると、よくわかります。

根元から半球形:B長崎県庁。


緩い立ち上がりがある半球形:C滋賀ビル。 

釜石のものは、正面写真しかないのですが、滋賀ビル型と言ってよいでしょう。
水の入れやすさについての工夫かどうかはわかりませんが、新しい方はSIAMESE.CONNECTIONの文字がきれいに見えます。


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② かつて本体と接続口を繋ぐ部分に弁の蝶番があった。

この中で、蝶番が見えないのはD釜石市庁舎だけです。
実は、扇形以外で蝶番がついている村上送水口(と思われるもの)が一件だけあります。
それは、近三ビルディング送水口です。ただし、こちらはいつ設置されたかは確かではありません。





プレートを見ると何の文字もなく、不思議な感じがします。
もしかしたら、これもかつては扇形だったのかもしれません。

追記。蝶番を見えなくしたのは、物作りは美しく、正確に、シンプルに、というメーカー様の心意気というか信条によるもののようです。
建設工業社様や消火栓機工様は、最後まで蝶番によるフラップ式の弁を採用していました。
村上製作所様は、昭和30年代にはフラップ式からリフト式の弁へと変更しています。




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③ かつて本体の中央には鎖留があった。

現在、村上送水口はロゴの有無に関わらず、鎖は蓋の先端からコイン状の金具へと繋がれ、留められています。
鎖留が本体中央にあるということでは、建設工業社製送水口、立売堀製作所製送水口が代表的ですが、これだと、鎖が垂れている部分が平面的です。

その点、村上送水口は3Dです。
奥行きをもった鎖の見せ方。絶妙な美しいそのカーブ。それは滋賀ビルから釜石の間に考えられたということなのでしょう。


B長崎県庁・・・鎖が平面的です。

D釜石市庁舎・・・鎖の設置方法に奥行きが出ました。貫禄が一気に増したようです。

斜めから見ると一層美しい。
有楽町の読売會舘ビルの送水口。




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④ かつてはロゴを付ける部分はなく、MURAKAMI CO.LTDと書いてあった。
D釜石市庁舎のロゴ部分のアップをどうぞ。

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⑤ 村上製作所製送水口を見分けるサインの一つである「奇跡のピリオド」はこの時期からあった。
「奇跡のピリオド」とは、私が勝手にそう呼んでいるものなのですが、SIAMESE と CONNECTION の間のピリオドを指しています。
通常の英語表記ではここにピリオドを入れる習慣はありませんが、これを入れたことにより、村上製送水口であることが確認できるわけです。
なぜここに入れようと思ったのかはわかりませんが、この小さな点でさえ愛しく思えてくるので、送水口ファンというのは不思議なものです。

A横濱ビルの奇跡のピリオド


扇形でなくなってもあります。(新潟旧大和百貨店ビル)


壁埋設になるとなくなりますが、(川崎市庁舎)
(何となく消したような痕跡が・・・あるといえばある・・・ような・・・)


壁埋設採水口にはありました。はっきりと!!(川崎市庁舎)




⑥ 村上製作所製送水口を見分けるサインの一つである「銅線トンネル入り口」は既にあった。


これは、送水口博物館に来ると体験的にわかるのですが(さりげなく宣伝)、本体と接続口の間に銅線をぐるりと入れ込んでいるのです。これがあることにより、ホース接続口がずれることなく回転しながらホースを繋げることができるのです。
村上製送水口は、壁埋設においてこの仕組みがあることにより、接続口と弁を繋げたまま取り外すことができ、更に(壁の内部に残さずに)修理が簡単かつ効率的にできるということでした。が、壁埋設ならともかく、露出Y型のこのときにもそれを考えていたのでしょうか。露出Y型であるなら、本体を外せば他のメーカー様の送水口でも弁はついてくるので・・・いや、接続口を外すだけで弁がついてくることが画期的だったということでしょう。この時代から改修を視野に入れていた、そのことも凄いと思いませんか?

この仕組みについて村上社長に伺うと、なんとビックリ「特許は取っていない」そうです。何故かというと、「どうせこの精密で面倒な仕組みは誰も真似しない。真似できない」ということだそうです。
そんな神のようなことがこの日本であるとは。
なんという素晴らしき技術。正確さへの愛。そして、素晴らしい時代。



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⑦ 村上製作所製送水口のアルファベット表記において、単語と単語を接近させる傾向がある。


B長崎県庁。近いです。


扇形ではない露出Yでも近いです。神奈川県分庁舎。



MURAKAMI と CO.LTD の間も近い。

近い。


先日送水口博物館にて話題になったのですが、奇跡のピリオドはこれを見やすくするためではないか、と。


因みに、他の会社(これはたぶん立売堀様)は広いです。とっても。

漢字になると、村上製送水口もたっぷり文字間をとってきます。可愛いです。健気です。



というわけで、こんなことを考えながら村上製送水口を見ると、また楽しみが増えるのかな、と思ったところです。



おまけ。
村上製送水口の英文字は基本的にアルファベットを貼っているのではなく、プレートと一緒に鋳造しているようです。だから、近くで見るとその断面はシャープな台形です。鋳型から抜きやすいように、とのことです。かっこいいです。




以下に挙げるものは、いろいろな文字のつくり方です。
非難するのではなくあくまでも比較対象として。
勿論どれも大好きです。ぐっときます。


別に鋳造して貼り付けた例。(松阪)
少しずれちゃうのが可愛いです。



文字の周りを機械彫刻(愛知) 
野性味溢れる感じが素敵です。




時代は下って、文字の中を機械彫刻。
さすがの村上クオリティ。(専属の機械彫刻屋さんがあるとか)




さらにおまけ。
新宿小田急百貨店の送水口。建設工業社様製です。
こちらは本体と一緒に鋳造なのか、文字を別に鋳造しあとから貼り付けなのか、パッと見たところよくわかりません。いずれにせよ。とんでもなく精密なつくりです。新宿に出かけた折には是非本物をご覧ください。片仮名の先端まで美しいです。




最近の送水口の文字表記は、殆どがシールによるものです。
勿論いかに見やすくするかという点で各メーカー様も工夫をしているそうですが、金属加工によるものと比べ、簡単で安価なのでしょうが、少し寂しい感じもいたします。



最後脱線しましたが(いやこの回自体脱線ですが)、村上扇形露出Y送水口についてつらつらと書いてみました。

次回、また長崎編に戻ります!

1 件のコメント:

  1. 追加 釜石市役所が造られたのは昭和29年のようです。

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