20210805

なんでこんな形なの?

 この送水口、どうして接続口が本体に対して鋭角なんだろう…?こんな質問を頂きました。




コメントでお答えするには長くなってしまったので一枚の記事にしてみました。


その1 下向きの理由

何故このように鋭角、というか下向きなのかというと、

「消防士さんがホースを繋いだ時に、折れ曲がらないように」であろうかと思います。

確かに、「だったらもっと下のほうに接続口を付ければ…」というお考えも出てくるわけですが、法令により、送水口の接続口は地面から0.5~1mの範囲と決まっています。その中で上記のことを観点として開発した場合にあの形になったのかと思われます。ちなみに、その高さの設定ですが、消防士さんが操作しやすいように、そして目視で見つかりやすいように、とのことであると考えています。

ところで私、この送水口を見たときには、「水を入れたときに凄く負荷がかかるのでは」と思いました。おそらくこのご質問もそのことから発せられたような気がいたします。しかし、通常よく見る送水口が90度だとしたら、これは下向きに15度ほど下を向いているだけなので、その点での困難はないようです。

それよりも「下向き」のほうが優先されるとのことだったのでしょう。広島では、↓のような送水口を見ました。90度の接続口に下向きのエルボアダプタが付いていたのです。





その2 製造中止

ところでこの送水口、検索しても見つかりにくい…とのことですが、仰る通りで、実はもう製造が中止されているのです。新製品へと切り替わったのは2016年。

おっとその前に、この送水口は立売堀製作所製、きちんとした認定品です。(認送074)

立売堀製作所様は、本店を滋賀県、本社を大阪府、そして工場を三つももつ送水口業界では現在最大手と言ってもよいメーカー様です。送水口を自らの会社内ですべての部品も含めて造り上げることができます。

さて話を戻しましょう。

この下向き送水口の製造が中止されたのは2016年。主力製品の一つだったようで、このようなお知らせも出ています。

縦スタンド型送水口変更のお知らせ


その3 変わり行く送水口

アダプタを付けるほどに求められて(?)生産されたはずの下向き送水口…それがなぜ生産中止になったのでしょうか。それは、先ほどの「縦スタンド型送水口変更のお知らせ」にあったように、立売堀製作所様が新たな送水口を開発したからかと思われます。

新しい送水口は、この5年間でぶわーーーーっと広まりました。こんなにも送水口って新しく作られ、そして取り換えられていくのだと実感できました。新型感染症が広まる前に行った台湾でも見たくらいです。

新しい送水口は、下向き送水口よりも場所を取りません。だんだんとスマート化がなされている送水口の世界。「ここまで来たんだなあ」と思ったのを覚えています。



そんなわけで、下向き送水口は、今後減ることはあっても新たに取り付けられることはないと思います。ですから、下向き送水口を見かけたら写真を撮影したり、声をかけたり(?)してその存在を味わって頂けると送水口も立売堀様も嬉しいかと存じます。もちろん私も嬉しいです。

以上、思いつくままに書いてみましたが、足りないところがありましたらまたお知らせください。
尚、今回も送水口博物館館長である村上善一様にお知恵を頂きました。感謝いたします。

20210714

改修成功!!昭和40年生まれの村上壁埋設

関東某所。
村上壁埋設、蓋と鎖は既に純正品ではありません。
いえ、はじめから付いていなかったのかもしれません。(プラキャップ仕様で)
鎖留は飾り板の下(壁)。




これを、村上製作所(送水口博物館館長)が修理します。
パッキンを交換するのです。

実はこの二週間前、交換をするために接続口の中に道具を入れて
回転させて弁体ごと引き出そうとした結果
その取っ掛かりとなるダボが折れてしまいました。
村上送水口は接続口から逆止弁までが一体となっており、
「それらが年数を経て固着してしまったよう」だそうです。

そんなわけで、一度現場から引きあげ
再度、改修の匠お二人を引き連れて再挑戦に挑んだ館長。
今後、数十年だって、いえもっと活躍してもらうために
パッキンだけでなく、
接続口と弁体がセットになっている部品をまるっと交換することになったそうです。



蓋を外した送水口と対峙する匠

硝子が割れないように防炎シートでガード

今回、匠が準備した道具の一つ。
(いろいろ、本当にいろいろありました。大興奮)

これを、こうして、こう

ぐりぐり

動きません。

仕方がないのでバーナーであぶって
接続口周りの缶ぽっくり部分を撤去。



熱いので冷やされる缶ぽっくり。
生け簀…(可愛い)

ようやく接続口部分が露出しました。
差込式なので回転に使える出っ張りが少ない。
回すのが大変です。

救出作業の時には恒例となったこの道具。この光景。

それでも接続口は回りません。
匠はトンカチを持ってきました。
(「大きなかぶ」ふう)


炎天下。

暑いのに
バーナーで焙られた送水口。
「いや、こっちも熱いんだよねえ」とも言わず
じっと次の作業を待ちます。
改修部隊は水分補給。
この辺りの夏は洒落にならないねっとりとした暑さが有名。
探索で何回死にそうになったことか。

接続口周りが焙られて変色しています。
ちょっと切ない

戦闘再開。

接続口の一部を切り取り、
固着部分がはがれるようにスペースを作ってあげてから回す作戦。
そうとう時間がかかっています。


功を奏したようで、接続口に動きが!



接続口と
接続口で抑えられていた飾り板が外れました。
お疲れさまでした。
とはいえまだ工程の半分。





ぽっかり



ここに新しい接続口をはめ込む作業が残っています。
匠はその作業に移ります。



一方、館長は飾り板の磨き作業へ。
先ずはまんべんなくピカールを塗布。
緑青が浮き上がってきたら
えいやえいやと擦ります。

…という作業を何回も繰り返し


ようやく文字部分が光ってきました。
嬉しい!



飾り板が積年の汚れを落としている間に
接続口部分が設置されました。
すごい!

飾り板を置いてからこの作業(接続口と弁体をすぽんと入れる)
をするのかと思っていたら違うのですね。
ふむふむ

おっとここで飾り板に動きが

えっ

穴を
開ける?

ある時期(昭和40年代前後)の村上送水口の一部には
鎖留が無いものがあります。
よって、取り付けるために!穴を!開けるんだって!!
と驚いている間に取り付けられている鎖留。
早業過ぎる。



接続口+弁体
飾り板
接続口キャップ
鎖を鎖留に
完成!


キャップもきらきら
文字もきらきら


実はこの匠
送水口ファンの間では有名な改修事例
「銀座の中島商事ビル」の方だったのです!なるほど!
(ほらほら、あの『ねじ式が差込式に替わっていたにも関わらず、あまりの技術でその外観がほとんど変わらずにしばらく気付かれなかった事件』ですよ)



これで次の日から建物で働く方や
利用する方が
「おっ、綺麗になったねえ」
と喜んでくれるはず。そうだといいなあ。


おまけ

磨き作業の下敷きになっていたタオルと
そのタオルに転写(?)された送水口。




お疲れさまでした!
そして
取材させて頂いて本当にありがとうございました。

この作業の動画(あまり上手くない…)は、送水口博物館で観ることができます。
ご要望がある場合はソーハクにてお声かけください。 

20210206

「都市のラス・メニーナス」で「送水口さん」について語らせていただきました。

先日、片手袋で有名な石井公二さん、編集者の磯部祥之さんが配信なさっているyoutubeチャンネル「都市のラス・メニ―ナス」に出演させていただきました。
これまでの活動と、送水口について思っていること、してきたことをまとめる機会に恵まれたと思っています。と同時に

二時間じゃ何も語れないなあ


ということが分かってしまいました。
次の送水口ナイトは一体何時間、いえ何日になるのか。(なりません)

ということで、もし宜しければアーカイブがありますのでご覧ください。
また、それまでの回も全て興味深いです。
私のお気に入りは村田あやこさんの「緑は都市を覆う」の回です。
好きすぎて村田さんのコメント覚えてしまった。

リンクはこちらです。




ちなみに、
「送水口を擬人化しているのでしょうか」という話題で
「どちらかというと人類は関係なく、送水口という種族というか生き物が存在する気持ちでいる」というような意味のことを話しました。(という記憶があります)
というわけで今回の表題を「送水口さん」としました。


20210106

古い街並みに溶け込む渋い送水口たち 栃木市

ずっと行きたかった栃木市。昨年末、日帰りで行ってまいりました。
家族が見たかったという古い街並み、とくに石造の蔵や看板建築が印象的です。
私はというと、先ずはNTT。無骨で頼もしい建物が目に入ってきます。さてさて。
ありました、ありました。
建設工業社様の壁埋設。英文字でこそありませんが、何とも言えない独特な色合いです。



蓋と鎖は取り替えられているようです。ちゃんとメンテナンスをされているということです。嬉しい。
そして、なぜか大体中央にあるCECのロゴ。相変わらず貫禄たっぷりです。嬉しい。


そうそう、ここには長谷川様の蓋もありました。長谷川様の蓋があると、それなりの由緒ある建物であり、送水口も期待できることが多いのです。

その隣には「弁」一文字のマンホール蓋が…。
裏手にはいかにも、な建設様の屋外消火栓。これもNTTでたまに見かけることができます。


こちらはとある結婚式場。立売堀様の露出Y型トリオではないですか。

祝福してますね…これは素敵なお出迎えです。


おそらくは金プレートだけでなく本体も金色だったことでしょう。単なる既製品ではない、特注品のプライドが感じられます。…とは言え少々くすんできています。まだ間に合嬉しい。ぴかんぴかんに磨いて差し上げたい。

すぐそばのホテルにも落ち着いた風情の送水口がありました。

南北製作所様製の壁埋設。いつ見ても個性的です。遠くからでもすぐ分かりますね。


さて、いよいよ市役所です。近年新築の役所には、なんと、スーパーや百貨店と同じ建物に入っている所があるのです!栃木市もそうでした。別にそれがダメというわけでは全くないです。所謂「庁舎建築」というジャンルがあるのなら、それが大好きな私としてはちょっぴり残念だなあ、というくらい。そう、ちょっびり……


いや、それはともかく問題は送水口です。
これはなかなかの美麗品ではありませんか…❤️


岸本産業様のロゴ。金属プレートではなく、機械彫刻!かっこいい…!!!!



岸本ブランドの最終形態の一つではないでしょうか。



もともと高い建物がないのは承知で訪れたので、数は少ないですが、ずっと見ていられるような、丁寧な送水口と出会えたことがとても嬉しかったです。


ここからはおまけです。
駅を出てすぐに出会ったおしゃれすぎるビル。


煙突?の掃除口。
何とも可愛らしいです。



寒くなかったら絶対に入っていた銭湯。
金魚湯なんて、なんて素敵な名前。
中が見てみたかったです…


こんなご時世でなければ宿泊したかったくらい素敵な街でした。
暖かくなったら…金魚湯に入りにいきたいと思います。